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家具も人との繋がりも一生もの。ーー家具職人の想い

こんにちは!日野市の職員Mです!
“○○の職人さん”と聞くと、なんだかぶっきらぼうで、ちょっと近寄りがたい存在だと思われがちかもしれません。
今回は、約20年間ものづくりに真剣に向き合っていた方が、お客様との出会いを通して、大切にしていきたいことが少しずつ変化していったストーリーを紹介します。

作ったものがすぐ捨てられてしまう

昔ながらの水路や田畑、ぶどう園などの風景が残る上田(かみだ)地区を歩いていると、「TIDAFIKA(ティダフィカ)」が見えてきます。

店内には、店主の吉村 悟(よしむら さとる)さんが作った無垢材のテーブル、椅子などの大きな家具から、写真立てなど小さなインテリアまでさまざまあります。

吉村さんは21歳に北海道から上京し、都心の百貨店の内装職人として働いていました。百貨店の各店舗の個性や客層に合わせて、ディスプレイを検討し、内装をデザインしていたそうです。

「当時は景気が良くなればなるほど、作ったものが次々と捨てられていくような時代でした。
自分が関わって作ったものが捨てられていくのを見て、あの時一生懸命作ったのに…とすごく虚しい気持ちになったんです。
今思えば、これがTIDAFIKAで大切にしている“生涯をともに過ごすことのできる家具づくり”を思うキッカケだったのかもしれません。」

普段の作業の様子を見せていただきました

日野市で開業したが…

それから無垢材家具の会社に転職し、自分のつくったものが長く使ってもらえる嬉しさやお客様の感謝が見える喜びを感じるようになりました。
その後、この会社でご縁があった方から跡継ぎがいない工房を譲り受け
2020年1月に現在のTIDAFIKAをオープンしました。
しかし、オープンした頃はちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し始め、様々な活動が制限され、お店にはお客様が来ない。そもそもお店がオープンしたことも誰にも知られていない、そんな状態だったそうです。

「正直、すぐお客様がついてくれると思っていました。個人の家具屋さんはニッチなので、そういったお店を探しているお客様は結構いるんです。なので、お店のホームページをしっかり作って、宣伝すれば上手くいくと思っていたんです。
いくつかのイベントにも出店する予定だったのですが、全部中止になって、お店をアピールする機会もなくなってしまいました。
オープンしたばかりでしたが、今後やっていけるのか、会社をやめてこの道を選んで良かったのか、本当に不安な気持ちでいっぱいでした。
この時は最低限の生活を維持していけるようにアルバイトをしていて、生計を立てるのに必死でした。」

日野市の人との出会い

新型コロナウイルス感染症はすぐ収束すると思っていましたが、そんなこともなく、コロナ禍の中でどうやって仕事をやっていけばいいのかわからなく悩んでいたそうです。
「ネットで必死に調べたところ、“日野市創業セミナー”のサイトを見つけて、すぐ応募しました。
15名程度の方が参加していたのですが、そこで出会った何名かの方から家具を注文したいというお話をいただけたんです。そこから少しずつ市内事業者の方に知っていただいて、家具を使っていただいたり、SNSにあげてもらえたりして、生活ができるようになってきました。
自分と同じような志を持っている方がセミナーには参加されているので、悩みを共有できたし、日野市で活動している人に出会えて本当に良かったなと思います。」

日野市創業セミナー…創業を目指している方や創業後間もない方を対象に創業時に必要なポイントをお伝えするセミナーのこと。

今後大切にしていきたいこと

最後に、これから大切にしていきたいことをお伺いしました。
「この工房を開く前は会社に所属していたので、会社のブランドを見て、商品を購入していただいていましたが、今はTIDAFIKAとして私1人でやっているので、商品が良くても、私の態度とか雰囲気が嫌であれば、買っていただけない可能性もあるわけです。
なので、前の会社いる時よりも、親しみを持ってもらえるように笑顔で話すように心がけています。
以前、高齢の方からご注文を受けた時はお家に上がらせていただいて、どんな家具にするかという話をしていたら、お子さんの話になったり、いろんな世間話をして、あっという間に4時間経ってたなんてこともありました。
でも、それが結構楽しいんですよね。
前はいかに自分の家具を買ってもらうかというところを考えていました。もちろん今もそれは考えますが、お客様ととりとめのない話をすることも楽しくて、これからはこういう時間をもっと大切にしていきたいと思います。
そして、いつか、TIDAFIKAが“まちの家具屋さん”と呼ばれるような必要不可欠な存在になれればいいなと思います。」

店先に木の端が置いてありました。
私も一ついただいて、家のデスクに置いています。

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吉村さんのものづくりに対する真剣なまなざしやお客さんとの関わりを見聞きし、私はすでにTIDAFIKAがこのまちに必要不可欠な存在だと思いました。
私は時々、地元の“まちの電気屋さん”の前を通ることがあり、店先で店の人とお客さんの楽しい会話や笑い声が聞こえてきて、ほっこりすることがあります。
これからもそのような風景がTIDAFIKAの前でも見られ、吉村さんと家具とお客さんが幸せな空気に包まれますように。